皆さん、不織布の袋ってお持ちですか?
何かのイベントに参加したり、お洋服を買ったときなんかにもらったりすることも多く、なんとなく、「何かに使えそう……」という理由でおうちの片隅にひとつかふたつ置いてある、なんて方も多いのではないでしょうか?
かく言う私も、旅行のときに着たものと着替えを分けたり、友人に本を貸すときなんかに重宝していて、家にひとつはストックしています。
このようにアフターユースに優れ、ノベルティなどにも選ばれやすい不織布のバッグですが、実際に注文するとなるとなかなか仕上がりのイメージが難しいと思います。
というのも、皆さん、印刷って、なんとなーく今あるデザインが布に印刷されるというイメージをお持ちではないでしょうか?ですが、実は気を付けなければならないこと、知っておいたほうがいいことってたくさんあるんです。
せっかく不織布のバッグを作ったのにイメージと違ったものが仕上がってしまった!なんてことにならないように、今回は不織布への印刷がどのように行われるかをわかりやすく説明したいと思います。
さて、そもそも「印刷」ってなんなのでしょう。
普段「印刷」と口に出していても、具体的に意味やしくみを説明して、と言われると難しいのではないでしょうか。
簡単に言うと、印刷とは「デザインや図、文字などを、インクで紙や布などの媒体に写す技術」のことです。
そして、この「写す」際に必要になってくるのが「版」です。この「版」によって、紙や布などに、デザインや文字を転写──印刷していくことになります。
でも「版で転写」といわれても、ピンときませんよね。
では印刷のしくみや版について、具体的なイメージをしていきます。
消しゴムハンコを思い浮かべてみてください。
消しゴムハンコを作るとなった場合、まず図案を作成します。
この図案が、「デザインや文字」であり、消しゴムハンコで図案を作成するパートは、印刷で言えばデータの作成に当たります。
次に、図案が完成したら消しゴムに図案を写して、彫刻刀などで要らない部分を削っていきますよね。
そうすると、図案の形が消しゴムに浮き出てくると思います。
この、図案が浮き出た消しゴムが「版」です。
あとはこれにインクをつけて、紙や布などにぽん、ぽん、と押していく……
これの作業にあたるのが「印刷」です。
このように「印刷」というものを説明されると「そりゃそうか」という感じなのですが、具体的なイメージがあると、印刷で気を付けなければならないこと、についての理解も深くなります。
よい印刷物、イメージ通りの印刷物を作ろうと思うと、このイメージがとても重要です。
因みに、消しゴムハンコのように図案が盛り上がっている版を「凸版(とっぱん)」と言い、凸版での印刷を凸版印刷(そのままですが……)と言います。
先ほどの消しゴムハンコ作成の工程も、凸版印刷の原始的な工程に近いとお考えください。
他にも凹版(おうはん)、孔版(こうはん)、平版(へいはん)などがあり、版の種類によって印刷の方法が変わります。
さてさて、それではようやく不織布への印刷のお話です。
不織布に印刷する方法はいくつかあるのですが、今回は弊社の不織布印刷の注文はほぼすべてこれ!というシルクスクリーン印刷についてご紹介していきます。
シルクスクリーン印刷とは、孔版印刷の一種です。
……はい、なんのこっちゃい、という感じですよね。
「孔版」の「孔」は突き抜けた穴、という意味です。つまり、ちょっと乱暴な説明になりますが、デザインの形に版に穴(孔)をあけて、そこにインクを流し込んで印刷をしていくのです。
図で説明するとこんな感じです。
穴(孔)の部分は完全に何もないわけではなく、メッシュ状の布が貼ってあります。
この上にインクを落として、スキージー(へら)でならすことで、メッシュの隙間からインクが通って、下に引いてある紙や布にデザインが転写される、というしくみです。
とってもシンプルな印刷方法ですね。
このようにシルクスクリーン印刷は、「メッシュを通してインクを乗せる」or「メッシュを通さずにインクを乗せない」の二択です。
ですから、グラデーションや濃淡を印刷に表現することができません。
もし、どうしても濃淡を表現したい場合は、ドットやラインで疑似的に濃淡を表現することになります。
例えば、色の薄い部分をドットで表現してみました。
グラデーションだとこのような感じでしょうか。
ただし、後で説明しますが、シルクスクリーン印刷はあまり細かい部分の印刷が得意ではない印刷方法なので、ドットや線の幅が小さいものは印刷しても潰れたりかすれたりして仕上がってしまいます。ご注意ください。
また、1枚の版に対して1色の印刷しか行えません。一枚の版に2色以上のインクを広げてしまったら、インクの色が混ざってしまいます。
なので、例えば2色印刷の場合は、版を色ごとに分けて2回印刷をすることになります。
色の数は、版を増やせば2色、3色、4色……と増やしていけますが、その分1枚の印刷物を仕上げるのに手間がかかり、料金は高くなります。そして、版ずれの問題も起こってきます。
版ずれ、とは版を何回も重ねるうちにずれが起こって、隙間ができてしまったり、本来重ならない色と色が重なったりしてしまう現象です。
例えばこういう場合ですね。
このデータ、黄色の部分と黒の部分がぴったりと隣り合っています。
データ通りに黄色の部分と黒の部分がぴったりの位置で印刷できれば問題ないのですが、少し位置がずれてしまうとこうなります。
もちろん工場の作業者の方には、工夫を凝らしてずれが少ないよう努力していただいていますが、シルクスクリーン印刷は人の手で行うことも多いため、どうしてもずれがでてきてしまいます。
そういったずれが気になる方は、1色印刷にするか、できるだけ色同士が重なったり隣り合ったりしないデザインを作成したほうがいいでしょう。
逆に、この特性を知っていれば、こんなデザインにすることもできます。
これなら版ずれが起こっても気になりませんね♪
では、先ほど少し話にでてきました「シルクスクリーン印刷は細かいデザインの印刷が苦手」という特徴についてお話していきましょう。
これにはいくつかの原因があります。
まず、1枚の版でたくさんの枚数を印刷した場合のことを考えてみてください。
インクを何度も同じ版に乗せて作業を続けていくので、当然液体であるインクは乾いてきます。
そうするとインクの乾いた部分によって、メッシュの隙間が細い部分に目詰まりを起こしてしまいます。印刷を進めていくほどに、細かい部分への印刷はしづらくなります。
もちろん、ある程度の枚数を印刷したら版をいったんきれいに掃除しますが、さすがに一枚ごとに掃除を行うことは、作業の効率上難しいのでご理解ください<m(__)m>
そのほか、インクが下の布に付着した際にほんの少しにじんで広がってしまうこともあります。これはインクが液体なので避けようがないことですよね。ほんの少しのにじみでも、とっても狭い線の隙間には影響が大きくなってしまいます。
弊社では、シルクスクリーン印刷をご希望の場合は、線幅(インクの乗る部分)は0.5mm、抜き幅(インクとインクの隙間になる部分)は1mm幅を取っていただくようにお願いしております。
「なんだ0.5mmや1mmでいいの?」と思われるかもしれませんが、文字なんかは結構この線幅や抜き幅を下回ってしまったりします。
多少であれば弊社で修正を行うことも可能ですが、デザインに大きく影響が出ると判断した場合は、お客様に修正をお願いしております。
その時に「デザインを大きく変えないといけない!」なんてことにならないよう、シルクスクリーン印刷で細い線を使用する場合は、線幅と抜き幅を定規ツールなんかで測りながらご作成ください。
いかがでしたでしょうか?
印刷のしくみがわかると、なぜこんなことに気を付けなければならないのか、という理解が深まるのではないでしょうか?
もしかしたら、「かっこいいデザインを考えるだけでも大変なのに、印刷方法まで気を付けたりしないといけないなんて、面倒くさい!」と思われた方もいらっしゃるかもしれません。
でも、あなたが素敵なデザインを作成したとしても、印刷をする際に「このデザインで印刷をすると、仕上がりが潰れてしまいます。それでもよければ印刷いたしますが……」なんて回答が返ってきたらどうでしょうか?
「そんなの意味ないじゃん!」って思いませんか?
そうです。どんなに素敵なデザインでも、印刷で再現されなければ意味がないのです。
ですから、せっかく時間をかけて作成いただいたデザインが無駄にならないよう、ぜひ印刷データを作成される前は、注意書きをよく読んでからデザインを作成してくださいね。